湯どうふの順正
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Filmy Arare “Usubane”
古い花街の一角に羽のように薄く軽い匠の技
“母の味”を親子代々守り続ける『みその橋サカイ』の冷麺

袋を開けると、ふわりと立ち上る香ばしい匂い。「うすばね」は、その名の通り羽のような反りがあり、風を受けて飛んでいってしまいそうです。

 新米の季節がやってきました。ほのかな甘味と香ばしさ。お米のおいしさを味わうには、炊きたてのご飯はもちろんですが、「おかき」や「あられ」などの米菓も魅力的です。京都の古い花街・島原の一角にある「菱屋」は、手焼き京あられ京おかきの専門工房兼店舗。明治一九年創業の老舗です。「ひい爺さんが滋賀県から出てきて、最初は松原油小路辺りで店を開きました。いまでも溜醤油は滋賀県の蔵のものを、餅米も江州米(ごうしゅうまい)のええのんを使わせてもらっています。島原には、大正の終わり頃に移ってきました」と語るのは,四代目当主の藤田さん。

 このお店の名物が、紙のように薄いおかき「うすばね」です。餅米一〇貫(約三七・五s)を丸一日、水に浸け、蒸し上げてついた後、冷蔵庫で四日から一週間。充分に乾燥させてから、かんなで薄く削って「欠き餅」をつくります。その厚さ、〇・二oから〇・五o。「なぜこんなに薄く?よう聞かれるんですが、これはわからへん。今さらひい爺さんに聞くわけにもいきませんから。ただ、京都には蕪を薄く削る『千枚漬け』という漬物がありますよね。あれと同じで、どれだけ薄くスライスできるか、職人の意地のようなもんやったと思います」。欠き餅の形を整えたら、網の上で天日乾燥。天候にもよりますが、これが二日くらい。そして、いよいよ「焼き」の工程です。「ここがいちばん難しい。なにしろ薄いので、一瞬で火が通ります。いい焼き加減は、きつね色になるちょっと手前。このタイミングを外すと、瞬きしている間に焦げてしまいます」。焼いた欠き餅は、充分に冷ましてから薄口醤油とみりんを合わせた調味料で味付け。そこから、さらに乾燥。全体では二週間もかかる工程です。その間に雨が降ると餅の生地が湿気を吸ってしまいますから、乾燥させる時間はさらに延びます。

 「嫁はんと二人で、ぜんぶ手作業でやってますから、たくさんは作れません。すぐ割れてしまうので、地方発送もできません。ここに買いに来てくれはる分だけ、ずっと作り続けていきたいと思(おも)てます」。口に含むと、軽い歯ごたえが一度、二度。ほろりと崩れてたちまち溶けた後には、お米の甘味と醤油の上品な香りが、薄くたなびくように残ります。冬場には、天日干しに時間がかかるので、餅の甘味がさらに増すとか。島原散策の際には、ぜひ味わってみたい一品です。

菱屋のすぐ近くにある島原大門。かつて新撰組の志士らも通った花街・島原の東入口で、慶応3年の建造当時の姿を今に伝えています。

菱屋のすぐ近くにある島原大門。かつて新撰組の志士らも通った花街・島原の東入口で、慶応3年の建造当時の姿を今に伝えています。

大量のお湯で茹で上げて、冷水で一気に締める。この気合いとタイミングが、独特の歯ごたえと喉ごしを生み出します。

店内にはSLを中心に藤田さんが自ら撮った鉄道写真が。幼い頃、梅小路の操車場が遊び場だったという藤田さんは、年季の入った鉄道ファンでもあります。

餅つきから焼き上げ、包装に至るまで手作業の「うすばね」は大量生産できず、繊細で割れやすいため、店頭での販売のみ。

餅つきから焼き上げ、包装に至るまで手作業の「うすばね」は大量生産できず、繊細で割れやすいため、店頭での販売のみ。

Information
菱屋
京都市下京区花屋町通壬生川西入南側
TEL:075(351)7635
 

手焼 京あられ 京おかき 菱屋 四代目 藤田 光一さん

手焼 京あられ 京おかき 菱屋 四代目 藤田 光一さん

座右の銘は、陶芸家・河井寛次郎の「暮らしが仕事、仕事が暮らし」。看板のイラストは先々代の作。英文の表示は、NHKの国際放送で紹介された際に、外国人観光客にも分かってもらえるようにと、光一さんが書いたそうです。

焼く前の欠き餅。向こうが透けて見えるほどのこの薄さが、独特の風味を生み出すのです。

焼く前の欠き餅。向こうが透けて見えるほどのこの薄さが、独特の風味を生み出すのです。



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