湯どうふの順正
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Hasegawa Weaving Shuttle Workshop
手になじむ道具、その究極の完成度を求めて
藍染めの新技法で、モノトーンの中に無限の彩り

長谷川杼製作所の入口。看板には、古い杼がオブジェのように貼り付けられています。

 戸口の前に立つと、聞こえてくるのは「シャッシャッ」と堅い木を削る音。西陣の一角、長谷川杼製作所。典型的な京町家の引き戸を開けると、土間と店の間があり、ここが長谷川さんの仕事場です。

 「杼(ひ)」は、織物を織るときに欠かせない道具の一つ。織物は経糸と緯糸の組み合わせによってつくられます。織機にかけられた経糸が上下に分かれて口を開けたとき、その間に緯糸を通すのが杼です。京都の西陣は、綴れや錦などの高級織物の産地。そう広くはない地域に、企画・デザインから織り、整理・加工にいたるまで、細かく分業化された工程を担う専門の職人さんたちが集まって暮らしている街です。町内を一回りするうちに一つの織物ができあがっていくという独特の仕組みが、長い歴史の中で形作られてきました。長谷川さんの工房は、その中にあって織りの職人さんたちに杼を供給する「杼屋」、京都風になまって「ひぃや」さんと呼ばれてきました。

 「この店は、私で三代目。親父の横について仕事を習い始めてから、もう六十年以上も杼をつくっています」西陣織の生産のピークは、昭和三十年代。その当時は西陣に十軒以上の杼屋があり、長谷川さんの工房でも、お父さんと二人で年間に千丁もの杼をつくったそうです。「まぁ、あれが限界ですわな。注文製作の杼は、1日一丁つくるのがやっとなんです」。繊細な絹糸を傷つけない究極のなめらかさと、経糸の間を一気に通り抜ける絶妙な重量感。そして、一人ひとりの織り職人の手になじむ持ちやすさ。その人の手の大きさや形、杼を動かすスピードや力の入れ具合、つくろうとする織物の風合いなど、長谷川さんはじっくり話を聞き、手に触れ、時には織物作品を見たり、機織りの様子を見学したりしながら、その人に最適な杼を仕上げていきます。

 現在では西陣の杼屋は長谷川さんのところだけ。全国でもただ一人の杼職人となってしまいました。西陣の生産量は減りましたが、全国の織り職人や美術大学の学生、さらには海外の織物作家の需要に応えて、長谷川さんは今日も杼を作り続けていて、その技術は奥さんの富久子さんが継承されています。

 秋、山の木々が美しく紅葉するさまを、錦の織物になぞらえて「錦繍」と呼びます。絢爛豪華な錦から、味わい深い紬まで、あらゆる織物に欠かすことができない長谷川さんの杼は、糸と人とが織りなす美を全国に、世界に、そして次世代に伝えています。

杼の材料は、国産材で最も堅いといわれる赤樫を15年以上も乾燥させたもの。素人にはとても歯が立ちません。

杼の材料は、国産材で最も堅いといわれる赤樫を15年以上も乾燥させたもの。素人にはとても歯が立ちません。

>鑢(やすり)の番手を変えながら、何度も磨きをかけ、仕上げには和蝋と食用油を混ぜた自家製の油をすり込みます。経糸の間を気持ちよく滑っていくなめらかさが、こうして生まれます。

鑢(やすり)の番手を変えながら、何度も磨きをかけ、仕上げには和蝋と食用油を混ぜた自家製の油をすり込みます。経糸の間を気持ちよく滑っていくなめらかさが、こうして生まれます。

杼の部品。糸を通す糸口は清水焼の陶製ですが、これをつくる職人さんも今はなく、貴重なストックを大事に使い続けています。

杼の部品。糸を通す糸口は清水焼の陶製ですが、これをつくる職人さんも今はなく、貴重なストックを大事に使い続けています。

 

国選定保存技術 「杼製作」保持者 長谷川杼製作所 長谷川淳一さんと奥様の富久子さん

国選定保存技術 「杼製作」保持者 長谷川杼製作所 長谷川淳一さんと奥様の富久子さん

「杼の本体は、30年はもちます。手になじんだもんは、職人さんは決して粗末にしませんから。修理を頼まれることもあります。直しながら、ずっと使い続けてもらいたいと思います」


Information
長谷川杼製作所
京都市上京区五辻通千本西入風呂屋町55
TEL:075(461)4747

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