「目疾地蔵」と呼ばれるご本尊・延命地蔵大菩薩坐像。
右目が赤くなっているのがわかります。

賑やかな四条通りを、鴨川を越えて祇園の方へ足を向けると、アーケードの中に突如現れる仲源寺。こちらに安置される地蔵菩薩は、「目疾（めやみ）地蔵」と呼ばれ、眼病を患う多くの方から信仰を集めています。

「実は以前は、『雨止（あめやみ）地蔵』と呼ばれていたんですよ」とお話しいただいたのは、ご住職の南忠信師。近くを流れる鴨川は、その昔は台風などで頻繁に水害を引き起こし、「暴れ川」と称されるほど恐れられた川です。鎌倉時代、朝廷から防鴨川使（ぼうがし）として派遣された中原為兼（なかはらためかね）は、水害の際、人々が四条河原の茂みで助かったことを知ります。そしてその茂みには一体の地蔵菩薩がたたずんでいたそうな。
「お地蔵さまに祈ると、たちまち水害は収束したそう。以降、『雨止地蔵』として信仰されてきたようです」。

「目疾地蔵」と呼ばれるようになるのはその後のこと。室町期に、この地蔵菩薩を熱心に信仰していた老夫婦の夫が目を患い、失明。妻が地蔵菩薩に恨み言を語ったところ、「寺の閼伽（あか）の水で目を洗うように」とお告げが。言葉の通り目を洗ったところ、みるみる視力が回復したそうです。後日妻がお礼に参ると、地蔵菩薩の右目が赤く充血していて、涙がつたっていたといいます。

「ご覧ください。お地蔵さまの右目が充血しているように赤いでしょう。これは、お参りする人の目の病を、その右目に引き受け続けてきたからかもしれませんね」とご住職。

この話は「四条の泣き地蔵」として広く知られることとなり、室町時代後期には眼病に御利益のある地蔵菩薩として数多くの参拝者が集まっていたとのこと。
「織田信長が描かせた『上杉本洛中洛外図屏風』にも“四条の泣き地蔵”の名が書かれています。当時から、目への御利益は有名だったようです」。

秋の夜長を楽しむ読書やスマートフォンでの疲れ目が気になる方は、ぜひ仲源寺で目疾地蔵の御利益に与（あず）かってみてください。お地蔵さんの赤い眼こそ、これまで多くの眼病の治癒を願う方々を見つめてきた証しです。

「白内障や緑内障をはじめ、さまざまな眼病を患う方がお参りに来られます。御自ら赤い眼をなさっているお地蔵さまが、皆さまの悩みを少しでも癒して下さることを、私も祈っております」。