「新しいものや、人がやらないことをするのが好きでね」。
そう語るのは、今年で93歳をむかえる生粋の職人、菅清風(かんせいふう)さん。菅さんが生み出すガラスペンは、すべてに硬質ガラスを使用した世界で唯一のもの。世代を超えて受け継いでいける高い耐久性と、煌めく凹凸がやわらかなカーブを描き、螺旋状にペン先へと続く美しさ。手の中で、光の当たり具合によって表情が移ろう姿は、筆を止めて見入ってしまうほどです。
「耐熱ガラス食器にシンプルなものが多いのは、硬質ガラスは加工が難しいから。こんな細工を施そうなんて思うのは、私くらいやろうね」と菅さん。ガラスペンのように細く小さなものに細やかな加工を施すのは、熟練の技術を要するだけでなく、高い集中力と根気が要求されるのだといいます。というのは、硬質ガラスを意のままに加工するためのガスバーナーの温度は、軟質ガラスの二倍に及ぶ1200℃に達する高温。ペンによっては、緊張感の高まるその加工工程が、4時間以上も続く過酷な作業なのです。
特に集中力を要するペン先には、菅さんのガラスペンならではの工夫が光ります。それは、使った人だけが実感できる、インクにつけた瞬間の駆け上がるような心地よい吸い上げ。菅さんのペン先の溝は、鋭角的なV字型ではなく、丸みを残したU字型。そのこころは、一度インク瓶に浸せばより多くのインクを貯めることができるためです。「そら、一回でいっぱい書けた方がええやろ。紙との接点も滑らかやしね」。試してみると、はがき一枚ほどならインクの補充なしで、さらり。
一日に限られた数しか作れない硬質ガラスペン。できあがった端から、予約された方々へ発送されていきます。
「朝一から、晩まで、今でもずっと仕事。酒もたばこもしないし、毎日決まった時間に床に入る。外出といえば、たまに連れ合いに食事に連れ出されるくらい。仕事が私そのものですかね」と笑う菅さんの周囲には、世界中から届けられた感謝の手紙がうずたかく積み上げられていました。
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「硬質ガラスでも、落としどころによっては欠けてしまうこともあります。一度お渡ししたペンは、すぐにお戻しする。即日修理して、夕方には発送します。私のガラスペンを大切にしていただけるんですからね」。 |