湯どうふの順正
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YAKIIMO- 絶品を食す
じっくりと寝かす「焼き芋」
じっくりと寝かす「焼き芋」

生にて皮を剥、寸斗の厚さに切、
うら表共に塩をはらゝとふりかけ、
遠火にかけ、焼、切様好次第。

 これは江戸時代のレシピ本「甘藷百珍」で焼き芋を紹介した一節です。数あるレシピの中でも、特に『絶品』として紹介されている食べ方のひとつですが、京の町にはさらに、美味なる金色(こんじき)の焼き芋がありました。
底冷えの京で白く色づく息を吐きながら、蛸薬師通りにずらりと並ぶ待ち人たち。その先はわずか二坪半の歴史を重ねたお店。
「家に持って帰って食べてな。食べ歩きはあかんえ」と、どっしりした焼き芋といっしょに、ぶっきらぼうにも聞こえる言葉を添えるのはご主人西村光生さん。この丸寿(まるじゅう)商店を継ぐまで、錦の八百屋でならしたという話を聞けば納得の語り口。お芋ひと筋、創業百三十年を越える丸寿商店の四代目です。
「うちが使てるのは、里浦の里むすめ。いい芋は一時しか採れませんので、焼き芋は十一月から三月まで。お盆過ぎから九月ごろまでは蒸し芋もしてますけど、四月からお盆まではどうしても店を閉めなあきませんねん」。そう語る西村さんの後ろには、『よく休みます』という札がぶらり。
丸寿の焼き芋は、塩水につけた里むすめを炭とコークスを使って絶妙な温度と時間でじっくりと熱々に焼きあげられます。しかし、常連さんや噂を聞きつけたお客さんのお目当ては、ほくほくの焼きたて味にあらず。その焼き芋を二週間から三週間保存すれば、落ち着いた黄金色に染まった、まるで芋羊羹のようなしっとり甘みの増した味わいに。
「買って四、五日は冷蔵庫に入れずに涼しいところへ置いて、その後二週間ほど冷蔵庫で少しずつ楽しんで。芋も呼吸をしているので、紙で巻いて、ナイロン袋には入れずに。巻いてる紙はこまめに取り替えてやってや」と西村さん。
この“寝かす焼き芋”の美味が「甘藷百珍」に掲載されていたとしたら…。もしかすると、江戸のベストセラー「豆腐百珍」に肩を並べる人気本になっていたかもしれません。

炎の祭り「広河原松上げ」
窯の蓋を開け、焼き加減を確認。蛸薬師通りに甘く香ばしい匂いが漂い、焼き上がりを待ちわびたお客さんの顔がほころびます。

丸寿(まるじゅう)商店
京都市中京区河原町蛸薬師通河原町西入ル
TEL:075(255)0106

 

丸寿商店 ご主人 西村光生さん

丸寿商店 ご主人 西村光生さん

「里むすめの左右と両端を切り落とし、塩水に浸けて甘みを引きだす。この仕込み具合が他とは違う」と話す西村さんは、職人誂えの使い込まれた桶や窯などに囲まれていました。

雅な香りを漂わす「にほひ袋」


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