花迎え あじさい
西国十番「あじさい」の山寺

 京都の街に熱気がむせかえる、夏の昼間。ちょっと足を伸ばして、宇治川のほとりへ散策に出かけてみませんか?「橋姫」にはじまり「夢浮橋」でおわる『源氏物語』宇治十帖のおもな舞台となった宇治には、王朝時代からの雅びな歴史と、連綿と受け継がれて来た信仰が息づいています。『源氏物語』の姫君の一人、浮舟の古跡が伝わり、平安時代の公卿たちも信仰を寄せた三室戸寺は、まさにそんな宇治の古刹です。
  夜もすがら月をみむろとわけゆけば
   宇治の川瀬にたつはしらなみ

 西国観音霊場十番札所、三室戸寺の山坂を登っていくと、信心深い巡礼さんのご詠歌が聞こえてきそうです。けわしくはないものの、長い坂が続き、息も切れそうになった時。遠来の客人をもてなしてくれるのが折々の花です。とりわけ、梅雨時から初夏には、色鮮やかな紫陽花(あじさい)の群れがやさしく迎えます。
 「さまざまな苦難を乗り越えて、観音浄土をめざされる巡礼の方々。あるいは、宇治の街を観光で訪れた人々に、目で楽しんでいただき、心を癒していただこうと、寺の境内で四季の花を育てたのが始まりで…」と語られるのは、ご住職の伊丹光恭師。五千坪の広大な境内には、およそ30種1万本の紫陽花をはじめ、つつじ約2万本、シャクナゲ約1千本、さらに7月から8月にかけては、約100種250鉢のハスが清雅な花を咲かせます。
 「何が起こるかわからんような世の中ですが、ひととき、ウグイスやホトトギスの鳴く静かな山寺で、花の美しさに俗事を忘れる。そんな時間を味わっていただきたいと思っています」。
 境内を歩くうちに、隅々までよく手入れされているのがわかる山上の庭園。その手入れは、園丁の方と、ご住職が2人きりでされているとか。“もてなす”心が込められた花々は、浄土の景色を想わせます。

 

三室戸寺 住職 伊丹  光恭師
三室戸寺 住職 伊丹  光恭師
庭園の名の「与楽園」は、衆生の苦しみを抜き楽しみを与える観音菩薩の本願。「抜苦与楽」に由来するとのこと。来年の秋には、秘仏の金銅千手観音立像がご開扉されます。


三室戸寺

 
三室戸寺
 
三室戸寺
宇治氏菟道滋賀谷21
TEL 0774(21)2067