ピューピューと木枯らしが吹く季節。京都の街から北を眺めれば、鞍馬山は真っ白な雪に包まれています。僧正ケ谷に棲むという天狗もさぞかし凍えているだろう…と思いつつ、こんな日はあつぅ〜いお湯で身も心も温まろうと、千本鞍馬口のバス停からほど近いお風呂屋さんへ。
  大正時代の末に建てられた料理旅館の名残りを伝える堂々たる唐破風の玄関、「船岡温泉」と染め抜いた暖簾をくぐり、三九〇円の湯銭を払って脱衣場に入ると…待っているのは、真紅の鼻と羽団扇を持った大天狗、烏天狗と牛若丸ッ! 一気に鞍馬山へ飛んだような漆塗りの格天井。ちょっと視線を下ろして欄間を見ると、今度は大砲や高射砲、昭和七年の上海事変をモチーフにした透かし彫り。岩風呂、檜風呂、サウナへと向う通路の壁には色鮮やかなマジョリカタイルが貼られステンドガラスの入った窓の外には、「きくすゐはし」という文字が刻まれた石の欄干まで−。「いったい、ここは何処なの!?」と首を傾げるばかりの別世界です。
  ふと思い出すのが、♪コンコンチキチン、コンチキチ〜のお囃子にのって真夏の京を練る祇園祭の山や鉾。異国の掛布や古今の工芸品が飾られた、あの絢爛豪華な山鉾の昭和版、それが船岡温泉の景色です。 「平日は夕方三時から午前一時まで、日曜日や祝日は朝湯もあります。いつでも快適なお湯を楽しんでいただけるようにコンピュータ制御を取り入れていますが、浴槽や洗い場の掃除ばかりは今でも人の力でやっています」と語るのは、三代目の大野義男さん。昭和の想い出が漂う“ お湯の文化財 ”は、大野さんの家族の手で今日も動き続けています。
 


「最近では外国人のお客さんも多くおいでになるようになりました。冬至の日の“柚湯”なんか、わかってはんのかなぁ〜」(笑)


船岡温泉(国の有形文化財)
京都市北区紫野南舟岡町82-1
TEL 075(441)3735