古美術の街の「錘馗さん」
天高き秋、上を向いて歩けば… !?

 北に玄武、南に朱雀、東に青龍、西に白虎、周囲を四つの神獣が護るとされる京。陰陽師・安倍晴明の昔から、さまざまな神々や神獣の伝説にことかかない都です。そんな伝奇をグッ〜と身近に感じさせてくれるのが、町家の屋根に時おり見かける「錘馗さん」の姿です。秋晴れの空の下、ユニークな錘馗さんを求めて散策してみませんか?
 古美術商、骨董店が軒を並べる新門前町の一角、「瓦久」田中瓦店の軒には、錘馗さんや鬼をかたどった瓦がずらり勢揃いしています。

「祖父、父、私と三代にわたって集めてきました」と語るのは当主の田中巖さん。古い寺院や民家の修築・改築の際に、譲り受けた錘馗さんや鬼瓦の数はざっと五十点。施主の要望に応えて取り付ける予定の新品も。
 町家の屋根に錘馗さんを置くようになった理由は、その昔、向いの家の大きな鬼瓦を怖がった某家の娘が病となり、その鬼を睨み返すために錘馗さんを置いたところ、たちまち病が癒えたことに始まるとか…。錘馗さんそのものの歴史はずっと古く、かの楊貴妃に災いをなそうとした小鬼を退治した中国の神様です。「京都は、お寺なら鬼瓦、民家には錘馗さんを置いて厄払いにしてきたんです」。瓦、いや、”異形の美術品“に囲まれながら田中さんは語ります。
 田中さんが若かったころには、「鬼師」と呼ばれる人々が、手づくりで錘馗さんを焼いていたとか。今ではすっかり見られなくなりました。

  瓦久田中瓦店 田中 巖さん
瓦久田中瓦店 田中 巖さん
「店先に錘馗さんを並べて置くと、ちょくちょく外国の方が『どうしても欲しい』と言って来られるんですよ」。と語る田中さん自身、街を歩く時は家々の錘馗さんを眺めるのが楽しみだそうです。

瓦久「田中瓦店」

  瓦久「田中瓦店」
瓦久 田中瓦店
京都市東山区新門前通大和大路東入ル
TEL 075(561)2687