「名曲喫茶」のクラシックな時間♪
マスターとお客の心の会話

 秋は芸術の季節。旅のひととき、古都でクラシックの響きに耳を傾けてみませんか?昭和29年創業の柳月堂は出町柳駅からすぐ近く。今ではすっかり数が減った「名曲喫茶」です。ただし!ここでは音楽を心ゆくまで楽しみたいお客さんのために会話は厳禁です。音楽のリクエストはノートに書き込み、飲み物や軽食の注文もメニューをそっと指さすだけ。
 「黙っているのはどうも苦手で…」という方は、ホールの入り口脇にあるバーへ。タイミングが良ければ、二代目のマスター・陳壮一さんの話を聞いてみてください。
 「昔は京大、同志社、立命館の学生さんがよく来られましたが、大学が郊外に移転するようになってからは若いお客さんが減って”ン十年前の“学生さんが懐かしがって来てくれはります。なかには、お年を召して新幹線に乗って車椅子で来はるお客さんも。店に置いてある雑記帳も二種類あって、若いお客さんや初めて来てくれはった人の分と、もう一冊は、『30年ぶり以上の方』と表紙に書いたノートです。ときどき、そのノートをめくってみると、名前も知らないお客さんからの嬉しいメッセージや思い出が綴られていて、思わず目頭が熱くなります。
 ホールの中では、お客さん同志が会話を交わされることはもちろんありません。でも、お互いに顔を見知ってはって、レコード店や街で偶然に出会ったりされるんでしょう。そんな常連のお客さんたちの輪がいつのまにか広がって、この店を支えてもらっています」。
 歩きながら、時には電車の中ですら、他人の迷惑を気にせずヘッドフォンで音楽を聴く時代。しかし、そこに溢れる音楽は、かえって人を孤立させているのかも知れません。会話厳禁の空間にこそ、むしろ、お互いに“音を楽しむ”温かなコミュニケーションがあるのではないでしょうか…。

 追記:自由に人生を楽しむマスター。いつも会えるとは限らないところに、柳月堂を訪れるもう一つの楽しみがあるのかも!?
  名曲喫茶柳月堂 陳  壮一さん
名曲喫茶柳月堂 陳  壮一さん

店でかかる音楽は全て、約8000枚のレコードの中からリクエストされた曲ばかり。「ベートーベンやモーツァルトのようなクラシックをリクエストされる方、マーラーのように近代の音楽をリクエストされる方、その好みが人の雰囲気に出てますねぇ(笑)」。なかなか油断できないマスターですぞ〜。

柳月堂

 
柳月堂

柳月堂
京都市左京区田中下柳町
TEL 075(781)5162