七月の声を聞くようになると、京都の街には祇園囃子が鳴り響き、息もできないような暑さの盛り…。ついつい観光の足も遠退く季節ですが、それでは京の夏の風情は楽しめません。鴨川から八坂神社への散策、途中サァーっと降りだす夕立ち。祇園の石畳がくっきりと映える情景のなか、パラ、パラ、パラパラと雨音を楽しみながら蛇の目傘を差すと、まるで時代劇か歌舞伎の主人公になった気分です。
  そんな京の風情と芝居心を満たしてくれるのが、幕末の文久二年(1862)創業の和傘専門店「かさ源」です。番傘、蛇の目傘、絹張りの日舞傘など純国産の和傘を専門に商うお店は、今では京都でもただ一軒となりました。
  「和傘は骨に和紙を張ったところへ、雨を弾くように油が塗ってあります。それで、雨のなかで差していただくとパラ、パラって、ものすごく心地の良い音がするんです。男性、女性を問わず、北海道や九州などの遠方からわざわざ傘を買いに来てくださる常連のお客様もあります。電話で御注文もいただけるんですが、職人さんの手作りの傘ですから、一つ一つ、手描きの模様なんかが異なっているので足を運んで、ご自分で選ばれるお客様が多いんです」と語るのは、はんなりと美しいお店を一人で切り盛りする青木智恵さん。「雨音が心地よいだけじゃないんですよ」と、青木さんがパッと開いた和傘の内側には、青や黄色、朱色の糸かがりが幻想的な美しさを漂わせています。
  「この糸かがりにしても、何十年という修行を積んだ職人技が無いと出来ない細やかなものです。その職人さんたちがいずれも七十代、八十代の高齢で、数も次第に減ってきているんですよ」。百円ショップでビニール傘が買える時代です。でも、古都の雨の風情を楽しんだり、日本舞踊や茶会の野立傘は、やっぱり和傘でないと形になりません。今年の夏は、大好きなあの人と“”相合い傘“で京都を歩いてみませんか?
 


「和紙を張った傘なので長持ちしないと思われる方もありますが、風通しの良い場所で陰干しをするだけで、二十年でも三十年でも使い続けることが出来るんですよ」

 
かさ源
京都市東山区祇園町北側284
TEL 075(561)2832