錦秋の紅葉の時季を間近に控えた十月二十二日、秋の都大路では京都三大祭のひとつ〈時代祭〉が盛大に行われます。時代祭は、明治から平安時代の装束に身を包んだ二千人にも及ぶ隊列が市中を練り歩くお祭で、明治二十八年(一八九五)に平安遷都千百年を記念して始まりました。葵祭・祇園祭よりも歴史の浅いお祭ですが、そのこだわりは半端ではありません。約一万二千点に及ぶ衣裳・装具は緻密な時代考証により、可能な限り当時と同じ素材と技術で復元された、まさしく“本物”のお祭なのです。
もちろん各時代の風俗をもっとも象徴する“髪型”にも、本物志向が貫かれています。「わたしとこが受け持つ江戸時代は、当時の髪型をぜんぶ地毛で結ってます」。祇園にほど近い東大路に面する『ミナミ美容室』の三代目南登美子さんは、四十年以上にわたり時代祭の髪結いを手がけています。
南さんご担当の「江戸時代婦人列」に登場するのは、幕末と人生をともにされた皇女 和宮や寛永の三名伎と謳われた吉野太夫など、女性の歴史人物。当日は午前七時から総勢十名ほどの髪を、午後十二時の出発までに手際よく結い上げる時間との戦い。熟練職人がなせる芸当です。しかし南さんのこだわりは、髪型の忠実な再現だけに留まりません。「例えば(行列に登場する)女流歌人のお梶さんは、祇園に茶店を営んでいた人。色街の女性としての俗性と、才女の知性が出るように心がけています。もちろんモデルさんに似合うことが第一ですよ(笑)」。
南さんのお店にずらりと並ぶ時代祭の髪結いのひな型は、先代のお母様によるもの。「娘でも手加減は一切なし、仕事ではとても厳しい人でした。でも母のおかげで、この年でも仕事をいただける技術が身につきましたし、母の残したこのひな型が今でも私のお手本なんです」。母と娘の確かな絆が支える京の時代祭―。華やかな衣裳だけでなく、今年は髪型の美しさにもぜひご注目を。 |
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ミナミ美容室 南 登美子さん
「日本髪の魅力は何というても、優美なその“カタチ”。若い人にも日本髪の美しさを伝えたいんです」。伝統的な髪結いを残すべく、後進の指導にも力を入れておられます。

1990年、オランダ・ロッテルダムで開かれた理美容の国際イベントで、日本髪を紹介された南さん。
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